2010/09/15

ファーストコンタクト

ずた袋のような軍物のバッグに数日分の着替えだけ詰め込み

大韓航空でLAXに降り立った

「ゴー ベニス、ゴー トゥー ベニスビーチ」

タクシー運転手にムチャクチャな英語で話しかける

運転手は「ハァ?」

なんだこいつ?と睨みつけ殆ど無視

何人目かでようやく「ベニスに行きたいのか?」


たぶんそう言ったと思う


「イエス!イエス!」

目で「乗れ」と合図され

「ハウマッチ!ハウマッチ!」

とにかく、ぼったくられないようにと最初に金額を聞いた

「30ドルだ」

「オーケイ、オーケイ」

ドアを自分で開けタクシーに乗り込み

初めて見るアメリカのタクシー車内を落ち着き無く見渡す

後部座席との間を防弾ガラスで仕切られた車内

ドキドキしながら外を眺めていた


「サンタモニカに行かないか?イイ所だぞ」

運転手がそんなふうなことを問いかけてきたが

「ノー、ベニスビーチ!ベニスビーチ!」

少しふて腐れた表情で無言のまま車を走らせる

「ベニスに着いたぞ、何処にいけばいいんだ?」

運転手の問いかけに無言のまま左の窓から外を見渡すと

ストリートの間から青い空とビーチが目に飛び込んだ

ついに来た!!!

何処と言われても行き先なんて決まって無い

ベニスビーチなら何処でもよかった

「オーケイ!オーケイ!」

確か5ドルほどチップを渡しタクシーを降りた

真っ直ぐビーチに早足で向かった

まだ店もまばらにしか開いていない午前10時頃

舞い上がる気持ちを抑えながら公衆電話を探す

トイレの近くに見つけ

VENICE 13というギャングのタギングだらけの電話で

教えられた番号をコールする

市外局番を押すと繋がらないことを知らず

少し焦りながら何度もかけ直す

「ハロー」

寝ていたようで低く無愛想なJと言う男が電話に出た

「あの~、京都のK君から紹介してもらったヒロシやけど」

「あ~、今何処?」

「ビーチに居る」

「何が見える」

「ジムがある」

「直ぐ行くからそこで待ってて」

30分以上待ったか?ドキドキしていて時間の感覚が無かった

真っ白のロンTにグリーンの無地CAP、同じグリーンのGUESSパンツ

VAN’SのハーフキャブにスケボーでJは現れた

坊主頭にヒゲずら

日本人には見えないメキシカンみたいな顔

その時が彼と初めて出会った瞬間

「ひろし君?」

「そう、どうもはじめまして」

「どうする?」

「とにかく安い宿ある?」

「あるよ、その荷物これに載せなよ」

そういって彼は自分のスケボーに俺のカバンを載せ歩き出した

タギングを指差し

「待ってた所は13の溜まり場なんだよね」

「向こうにピザ屋なんかがあるところがクリップスの場所で」

そんな話を聞きながら5分ほど歩いたところで

ボロい建物についた


HOSTEL。。


モーテルでもホテルでもない聴きなれない看板が書かれた建物

「ココなら一人部屋でも30ドルだね、共同ならもっと安いけどお金とかあるでしょ?」

「そうやな」

きしむ階段を上ると

カウンターの中でギターを引いている男が一人

「チェックイン」

そう言うと男は

「部屋どうする?何人だ?」

自分を指差し

「オンリー!オンリー!」

「30ドルだ」

100ドル札を出すと

目を見開きヒュ~と口笛一つ

「ココじゃ100ドル札なんて普段見ないからね」とJが言った

毛布も何も無いパイプのベッドと椅子が一つ

壁は穴が開いていて外が見えていた

「一応カバンベッドの下にでも隠した方がいいよ」

「この前も日本からツレが来たんだけどお金取られてね、しばらく居るつもりだったけど帰っちゃって」

「マジで!」

「従業員が金取るからね」

そう言ってJは笑ってた

30分ほど部屋でまったりすると

「ビーチ行こうか?」

言われるままJに付いて行った

既にビーチは賑わっていて映画で見た光景が広がっていた

ゴルフクラブを持った黒人ギャング

鋭い目つきで数人がたむろしていたり

お洒落とはほど遠いぶっといドレッドヘアをしたジャマイカン達

両足が無く車椅子で

「99セントピザ~」と叫ぶベトナム帰り

信じられないほどボロボロで裸足のホームレス

通りすがりに囁くように

「バッツ」や「マジックマッシュルーム」と

声を掛けてくるプッシャー達

ハンドメイドのアクセサリーを売るヒッピー達

マッチョの白人、ビキニのおね~ちゃん

もう訳がわからん世界が広がっていた

20分ほど歩いて通りを曲がり

古いけど雰囲気最高なアパートの前で立ち止まった

呼び出しのルームナンバーを押して

「居ないね~、たぶん学校かな?」

「ツレの所?」

「そう」

しばらくすると住民が一人帰ってきた

無言でスマイルしてその男に付いて中に入った

エレベーターで最上階まで上がりツレの部屋をノック

「やっぱり居ないね」

そのまま非常階段から屋上に上がる

何も分らずとにかくついていった

「ここからビーチがパノラマなんだよ」

Jがそう言って屋上に上がるとそこには特別な部屋があった

その部屋はL.A大地震のため壁にヒビが入り誰も住んでいない

「ドアーズ知ってる?」

「知ってるで」

「映画でここジムモリソンの彼女が住んでるアパートで出てくんだけど、実際はこの部屋に本人が住んでたんだよね」

Jはそう言って柵も無い屋上をヒョイヒョイと

地震で崩れかけた壁のガレキを飛び越え進んでいく

「見て、ヤバイでしょ!」

「うわ~。。。」

ヴェニスビーチのパノラマが広がっていた

そこからの景色は今でも忘れられない

青い空と海

同じ海でも日本で見てきたソレとは全く別もの

そこから下を見下ろすと

アパートより低い建物の屋上が目に入ってきた

目を疑う光景

屋上に部屋のある建物

でも壁だけで屋根が無い。。

「なんやあの部屋!」

「ヤバイね、雨降ったらどうすんだろね!でも最高でしょ、夜は星見ながら寝れるね」

もう訳がわからん。。。。

しばらく眺めていると

「甘いもの好き」
「うん」
「ケーキ食いに行こうよ」
別にその時ケーキが食いたいわけじゃ無かったけど
言われるがままついて行った
超ローカルな小さな店
ケーキと言ってもチョコレートケーキとレモン?の二種類だけ
ぼろいテーブルと椅子の一組だけが店先の歩道に置いてある
「ハイ」
Jは相変わらず低くて無愛想な挨拶をすると
「ハワユー ドゥーイン!」と店のオヤジが元気に応えた
注文は彼にお任せ
チョコレートケーキ2つとミルク2つ
ほとんど砂糖を食っているような超甘いケーキをJは
「美味いね」と言って食った
オレは半分でギブアップ
「食わないの?食ってイイ?」
そう言ってオレの分までたいらげてまた歩き出した
「めっちゃ甘いな」
「そう?美味いじゃん」
そう言いながらコロコロとスケボーを転がし
階段や段差の度に技をきめてJは進んでいく
「めっちゃ上手いな」
「XXの方がぜんぜん上手いよ」
全く知らない奴の名前を言ってまた技をメイクしながら進んでいく
しばらく進み住宅街を抜けると
お洒落なカフェやアンティーク屋が立ち並ぶストリートにでた
そこから一本通りを入ると景色が変わった
平屋が並ぶ住宅街
でも今までとは空気が違う
バギーを履いたチカーノギャング達が家の前でたむろしている
「ワッツアップ」
相変わらず低く無愛想な挨拶をしながらあるアパートの前で止まった
アパートの向かいには黒人が一人立っていた
「ワッツアップ!」
デカイ声で声をかけてきた
Jは相変わらずの声で「ワッツアップ」
古くて小さな二階建てのアパート
鉄格子と網戸、そして扉の三重構造
Jは身軽に階段を上り一番手前の部屋で止まった
「ココなんだよね」
ストリートは6th Ave (シックス アベニュー)
鮮明に覚えている
ドアを開けると突然奥から主人の帰りを待ちわびていたかのように
トイプードルが飛び出してきた
「どうぞ、靴は脱いでね」
ブランケットが掛けられた拾ってきたようなソファ
観葉植物に窓にはブラウィンド
そこから少し傾いた日差しと
乾燥した冷たく気持ちのイイ風が吹き込み
ブラウィンドがカタカタと音を出して揺れていた
ブラウインドの影が部屋全体をストライプ状に写し出し
まるで映画のワンシーンのようだった
ガロンサイズの容器に入ったオレンジジューズをグラスに注ぎ
テーブルに置いた
その横にはブルーのアクリルで出来たボング
落ち着き無く部屋を見渡しながら
「トイレ貸して」とガマン限界だった小便を済ましにトイレに向かった
使い込まれたゴールドメッキのドアノブ、日本の物より丸い便器
壁に貼られたポスターに植物

壁は白のペンキで電気のスイッチまで大雑把に塗られていた

けして裕福では無い、というより完全に低所得者階級の部屋

その全てが夢にみた景色だった

「一人じゃないよね」

その問いかけにJは

「彼女と住んでんだよね、ここワンベッドで家賃590ドル、内職とか色々やりながら月1500位稼いでるかな?1500あればなんとかなるね」

「ビザは持ってんの?」

オレの問いかけにJは

「5年の学生ビザ持ってるよ、月100ドル払えば行かなくても在籍にしてくれんだよね、学校も金儲けだからさ。今は取り難いみたいだけど、オレの時は余裕だったね」

オレは日本で一度会った事のある年上の人を探していた

「XXちゃん知ってる?」オレの問いかけに

「知ってるよ!この近くのアパートに住んでるよ。初めて来た時はオレ一人でさ、彼と出会って動かない車で一緒に寝泊りしてたんだよね、色々大変だったみたいだね、K君大丈夫?後で行こうよ」

そう言ってラジオのスイッチを入れるとそこから

最新のHIP HOPナンバーが流れてきた

落ち着き無くラジオの周波数を変え

今度はロック

パラパラとCDのファイルをめくり

Jが言った

「ビートルズ好き?」

ビートルズが昔から大好きだったオレは即答で

「うん」とうなずいた

ラジオからCDに変え

今度はビートルズがスピーカーから流れてきた

カリフォルニアとは無縁のはずの音楽

しかし不思議とその時

目の前に広がっている風景とマッチしていた

部屋の明かりは点けず

窓から差し込む日差しがビートルズの哀愁と溶け込み

夢のような空気が漂っていた

外ではウーハー全開の車が行き来してその音に負けないぐらいデカイ声で黒人達が会話している

「あいつらギャング?」

「クリップスだね、カラーズ観た?あれのモデルがここの奴等なんだよ、ベニスとハリウッドとの抗争がモデルだね、この町は青だね」

狭いフッドに色んなヤツが共存している不思議な町

ヤバイ

この町に住んでみたい。。

これが今でも鮮明に覚えている初めてのL.A

いや、VENICEという町との出会い

L.Aに住もうと決心した瞬間

そして最高の男とのファーストコンタクト

その一年後L.Aで生活を始めたオレは彼と色んな話をしてきた

その後JはVAN NUYSに移り

最後は車で2時間ほど内陸の町、ランキャスタに引っ越して行った

それでもオレは夜仕事が終わってから

彼に逢う為に頻繁に車を走らせた

別に用事は無かった

ただJに逢いたかった

逢って話がしたかった

電話じゃダメだった

ただそれだけの理由で山を越え

今度はプラネタリュームのような星空の広がる町まで

いつ止まってもおかしくないボロのシボレーのアクセルを踏んだ

行動しないと最高の奴とはいつ どこで出会うか分らない

彼と出会わなければ今のオレは居ないと思う

彼は5年間のカリフォルニア生活を終え、

今ではその時の彼女と沢山の子供に恵まれ

日本の田舎で暮らしている

そろそろ逢いたいねぇ

逢いに行くか

今度はボロのリビエラか?

いつものように照れくさそうに低い声で

「ワッツアップ」

いつもそこから始まる

話す事、伝える事の大切さ

カリフォルニアでの生活で

お互いそれを覚えた

人の心の奥底までは

メールじゃ伝わりきれない

時間を掛けてでも大切な人とは会って話がしたい

オレはいつもそう思っているし

そうしてきた

行動する事によって心で感じ取れる何か

それが重要なんだ

「フットワークいいね」

よくそう言われるが

彼との出会いが

そうさせてきたのかもしれない

KEEP ON MOVING!


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